フォーチュンクッキー
「……―で?今できることは?」

 いつまでも肩を落とすチビ助の頭にポン、と手を置く。

泳ぐ視線の中、微かに唇が動いた。


「………勉強、です…」

 本当はチビ助もわかっているはずだ。

みんなそれぞれがもがいて悩んでいること。


「わかってるじゃん」


 ずっと褒めてやるのも癪なので、いつものようにオレはクセ毛で隠れた額を思い切り弾いてやった。




 うっすらと暗くなるころ。

うーんと伸びをしたチビ助のかえる時間がやってきた。

「家に、帰れるか?」


 昨日のことがあって、きっと家に帰りづらいはずだ。

けれど、チビ助は力なくコクンと頭を縦に振る。


 また無理をさせてしまっているのかもしれない……と、オレは改めて不甲斐なさを実感するだけだ。

「じゃあ、マスター。オレもあがります」


 エプロンを丁寧にたたんで、カウンターの下にしまう。

さすがにこの一連の流れに慣れたのか、オレが支度を終えるころチビ助もコートとカバン片手に腰掛けて待っていた。


「よし、いくか」


 暖房の効いた部屋にいたせいか、ベルを鳴らして開けた扉の向こうは、オレを責めるように身を切るほど寒く感じた。


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