フォーチュンクッキー
 体育館では、つま先が凍えそうと口々にする生徒たち。

みんなでハアと白い息を指先に掛け合いながらも、今朝伝えられた卒業制作に胸を弾ませていた。


 校長先生の話の中にやたらと顔を出す『卒業』や『受験』の言葉。

寂しさと同時に、妙な期待感も膨らんじゃう。


 始業式も終われば急ぐように教室へ駆け込む。

暖房は消されていて、すっかり冷え込んでしまった室内は人の塊が数個作られる。



 親友の綺麗な黒い髪は、冷たい空気に触れて一層輝いて見える。


 普段なら誰よりもはやく駆け寄って、あたしの隣で楽しそうに笑っているのに。

今ばかりはたった数歩の距離が…ほんの少し開いてしまった距離が……とても長く感じた。



 先生からのありがたいお言葉を頂戴しながら宿題を提出すれば、今日の学校も終わり。


 その放課後は、やけに騒がしかった。

早速卒業制作に取り掛かるみんなに混じって、あたしもやる気マンマンだった。


「杏ちゃん、一緒にやろうよっ」


 腕をまくったあたしとは目すらあわせない。

そんな杏ちゃんはギュッとカバンを握り締め、消えそうな声で呟いた。 


「ごめん、用があるの」

「……―そっか」


 返事もろくに聞くわけでもなく。

そのまま教室を飛び出してしまった杏ちゃんを、追いかけることは出来なかった。



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