フォーチュンクッキー
 顔をあわせれば挨拶はする。

そんな程度しか杏ちゃんと話せないでいるのが、もう一週間も続いてる。


 年明け早々、ため息ばかりだった。


 卒業制作は放課後残ったりして、あたしは順調に終わりを見せ始めている。

なのに、あたしを見てはさっさと教室を出てしまう杏ちゃんは、きっと作業は亀みたく遅いはずだ。


 だからというわけではないけれど、ここ最近、あたしが先に帰るようにしてる。

そんな今日は、珍しく、喫茶店の前で太一さんに会えた。


「元気ないな、どうかした?」


 いつもの席に座って、いつの間にか深いため息をついていた。

マスターは奥で新聞を広げていたけど、目の前では変わらずエプロンをつけながら“先生”が心配してくれた。


 こんなことを正直に話してしまったら、きっと太一さんだって悩んでしまうに違いない。


 でも、太一さんだったらどうする?

そう思って、おずおずと口を割ってみた。


「た、太一さん…。
……もし、ですよ?太一さんが、友達と喧嘩したら……どうします?」

「は?いきなりなに?」


 バレませんように、とぎゅっと拳を握る。

チラリと上目で伺ってみたものの、きょとんとした瞳で見つめ返された。


「た、例え話ですよ!?えっと、……ほら、怜さんとなんとなーく、よくない雰囲気になってしまったときとか…!」


 我ながら慌てすぎだとは思う。

だけど心配はかけたくないんだもん。



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