フォーチュンクッキー
 あの日。

それは、喫茶店が今年の営業を始めた初日に杏ちゃんが一緒に来てくれた。


 凛子さんにフラれて、お父さんも側にいてくれなくて、太一さんももうすぐいなくなっちゃう。


誰も隣にはいてくれない。


そんな寂しさから、いつだって笑ってくれた杏ちゃんに泣きついたんだ。



「……わかんないです。話し掛けても、会話にならないし」

 学校に行っても、困ったように二言三言しか返してくれない。

気にしてないよって素振りで接しても、杏ちゃんは見てくれない。



 シュン、と肩を落としたあたしの頭上で、太一さんは思い出すように呟いた。


「杏ちゃんも頑張ってたからな。お前に……、親友に応えたくて」

「え……?」


 その言葉の意味がわからなくて、聞き返してしまった。


 あたしにはわからなくて、太一さんにはわかるの?

太一さんは疑問に答えるように、優しく諭してきた。


「いつだって味方でいてくれた彼女を、お前は頼っていただろ?
その期待を壊したくなくて……勉強も恋も、チビ助より半歩先にいたんじゃないか。
と、オレは思う」

 照れもあったのか、すっと視線を正面に戻してしまった。

だけどそれが本当なら、今のこの状況は確実に―……


「あ、あたしの……せい…」

 一気に視界が緩みそうだった。

あたしが、杏ちゃんを追い詰めていたのかもしれないだなんて。


そんな考えがよぎった瞬間、太一さんはきっぱりと言い切った。


「それは違うな。
杏ちゃんだから……いや、二人ともが大切だから、だよ」

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