フォーチュンクッキー
 差し出してくれたハンカチは、水道で必要以上に冷たくなり、あたしの膝にあてがわれた。


 目の前では、白い息を充満させながら男の子たちが楽しそうにボールを蹴ってグランドを走っている。

隣では、大切な親友があたしの膝小僧とにらめっこしてくれていた。


「血は大分止まったから、もういいよね」

 すっと立ち上がった杏ちゃんの腕を、あたしは無意識に掴んでいた。


「……な、なぁに?」

 驚いた顔で見下ろされ、ふと我に返る。


「…あ、洗って返す……っ」

 あたしも条件反射のように動いてしまったから、どうにか動機を探すのに精一杯だった。


多分、またいなくなっちゃうような――そんな気がしたんだ。


「……うん、わかった」

 そう呟くと、再び隣に座りハンカチを渡してきた。


 ハンカチはすこし血が滲んでしまい、早く洗わなきゃ。

そんなことを頭の隅で考えながら、隣をチラチラ盗み見してしまう。


 なんて言って切り出そうか。

いざ杏ちゃんを目の前にすると、言いたいこともすっかり飲み込んで、折角の勇気が台無しになりそうだ。


 冷たい風が吹きぬける中、沈黙を破ったのは杏ちゃんだった。


「嘘、バレちゃったね」


 丸くなっていた背中をピンと伸ばせば、杏ちゃんは不安げに俯いていた。




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