フォーチュンクッキー
 グランドと体育館の間に腰掛けられるほどの段差をベンチ代わりにしているあたしたち。

俯いた杏ちゃんにかける言葉がみつからない。

「あの、あたし……」


 どういって励ましたらいい?

だってそれは、半分あたしのためでもあったんだ。


「未来は……気にしなくていいんだよ?わたしは、それを利用しちゃったんだ」

 優しい言葉は、深く突き刺さる。


「いつから、雛太のこと―……?」

「わかんない。気づいたら、ヒナのことばかり見てた。
だから、さ。ヒナが誰を想っているかも、すぐわかっちゃうんだよね」


 杏ちゃんの長い黒髪は、すこし曇り始めた空から浮き彫りにしたみたくキレイ。

それは、寂しそうにも見えた。


「未来はそれどころじゃなかっただろうし、ヒナ自身もわたしたちの関係を壊したくなかったんだと思う」

 わたしも同じだったけどね、と苦笑いをしていた。


「ヒナが少し変わったのは、ちょうど太一さんの家庭教師が始まったくらいから。
まあ、当たり前よね。未来の浮かれ具合は、可笑しいくらい見て取れるもの」


 そんなにバレていたのか。

単純すぎる自分に、顔がのぼせそう。


 ヒナに好きと言われて相談したのは、杏ちゃん。

そのとき、どんな想いで聞いていたのか―……。

やっぱりあたしは、親友失格なのかもしれない。


「……だから、許せないの」


 怖いくらい静かに呟いた杏ちゃん。

伏せがちの瞳は、ひどく哀しそう。


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