フォーチュンクッキー
「……もう、身体の調子はいいんですか?」

 なんとなく間が持たなくて、なんとか話題を見つけて口を開く。

すると、おじさんはくすっと忍び笑いをし、足元に視線を落として呟きはじめた。


「キミにも随分迷惑をかけたね」

 まさかそんなことを言われるなんて思ってなかったから、オレは言葉に詰まった。


「…──太一くん、留学するんだってね」


 ドキリとした。

おじさんに言われると、やっぱりチビ助は寂しい思いをして、誰にも言えずまた一人で泣くことになるのか。

なんて考えてしまう。


 留学やめる──なんて言葉は、結局はその場しのぎ。


 チビ助がそれを選ばないと信じてはいるものの。

でもそれは自惚れだったのか……今でも、オレにはわからない。


「未来には苦労ばかりさせてね。…本当のことを言うと、キミが勉強を見てくれるって聞いたとき、僕は半信半疑だったんだ」

「お父、さん……」

 チビ助の向こうにいるおじさんが、困ったように笑う。


「僕も学生のときは成績がよかったわけじゃないから、偉そうなことは言えないんだけどね。
……本当に、ありがとう…」

 ピタリと足を止めると同時に、腰を深く折って頭を下げてきた。


「ちょ、ちょっと…やめてくださいよ!」

 慌てておじさんの身体を起こそうとしても、ガンとして直ってくれない。


「お父さん、太一さんが困ってるってば!」

 チビ助も一緒になっておじさんを起こすと、ようやく顔をあげてくれた。

その顔は、哀しそうにも見えた。



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