フォーチュンクッキー
「オレの方こそ……ありがとうございました」


 きっとチビ助が勉強をするより、オレのほうがいろんなことを教わった。


「たたた、太一さんまで……っ!」

 きゅっとオレのコートを掴んだチビ助は、やさしく揺する。

その小さな手は、何度も涙を拭ってきた。


「いやいや、やめてくれよ太一く─……」

「本当に感謝してるんです」


 慌て始める片瀬親子に直り、少しだけ上体を戻す。

それでも、オレは話すのを辞めたくなかった。


 今、伝えなくちゃいけない気がしたんだ。


「オレ、嫌なことから逃げてばっかで……全然前に進んでいなくて。だけどそんな状態もずっと気に食わなくて」


 窓にへばりついて店内を見渡していたチビ助が出会いだった。

律儀にもおごりだというカフェオレの代金を支払おうとしていた。


そして、勉強を教えてやるといったら、嬉しそうに目を光らせた笑顔。

 「好き」といってきた、儚げな瞳。

しかし無邪気に笑うその裏では、寂しさに耐えて、家族や友達を思いやるその優しさ。



「……まだまだコドモなオレに、未来が、教えてくれたんです」


 全てが、惹きつけられる一途を辿るばかり。

そして、オレの弱さを、最大級に突きつけられた気がしたんだ。



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