フォーチュンクッキー
 教えた連絡先はチビ助に使われたことは、未だない。

何かあったら────いや、何もなくたってよかった。


 こんなオレにだって、今ごろどうしてるだろうかと思うときくらいある。

まあ、今どき携帯電話をもたないチビ助が、そう頻繁に連絡してくるとも思えないのだが。


 俯いたオレは、くすっと笑わられた。


「太一ってさ。結構、辛抱強いわよね」

 皮肉っぽい感心を交えたサトの言葉は、なんだかくすぐったかった。


 その直後のこと。

作業の邪魔にならないように、と、ジーンズのポケットにねじ込んでいた携帯電話が震えだす。

慌てて開くと、そこには名前も表示されない十一桁の携帯番号。


「………知らない番号だ」

「イタズラ?」


 覗きこんできたサトは怪訝そうに見てた。

けれどサトの心配をよそに、長くコールされるその発信にごくりとつばを飲み込んで、オレは応じた。


「──もしも…」

 受話器の向こうでは、キャーキャーと人がざわめく音が一番最初に聞こえる。


「なんだ、これ?」

 思わず口にした瞬間だ。


『あっ……、え?……ぁ、やっ、ちょ……っ』


 慌てふためく女の子の声。

だけど、どことなく聞き覚えのあるもので…しかし雑踏にまみれて正確には聞き取れなかった。

< 465 / 506 >

この作品をシェア

pagetop