フォーチュンクッキー
 肩の力をどっと抜き、ため息を一つついて重い口を開く。


「…じゃあ、代わってくれる?」

 そばで聞き耳を立てていたサトも、次第に状態を把握してきたらしい。

思い切りつまらなそうに「なーんだ」と顔に書いて、くるりと背を向けた。


 相変わらず、携帯電話の向こうでは、くすくすと小ばかにするような笑い声が絶えない。


『んー、どうしようか、未来?』

 意味深な雛太くんの言葉の次にはガサガサと音がする。

そして、やっと愛しい息遣いが受話器越しに響く。


『あ、太一さん?』

 その機械的な音質のチビ助の声に、また新鮮な感じがした。


 ……こういうのも悪くないのかもしれない。

ふと、そんな風に思っていたとき。


『ひゃぁっ!…ちょっと、雛太!…ヘンなとこ触んないでってば!』



 ……────は?


 チビ助の言葉は、オレの脳内をさっきの続きで再生させた。



『ごめんなさい、太一さん…』


 困ったように笑うチビ助の顔が目に浮かぶ。


『雛太のコトは気にしないでくださいね?』

『…さ、続きしようぜ?』


 チビ助の向こうで、雛太くんの意地悪な声がチクチクと平常心を刺激してくる。

もちろん、悪い方向へと。

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