フォーチュンクッキー
 言われたように、オレは怒っているのだろうか?

ナニに?誰に?


 今更雛太くんに嫉妬したって仕方ないのに……。

なのに、あいつが、あんなヘンな声を出すから。



 ガシャン、と自転車の鍵を解除し、目的地を一点に向きを直す。


「だから放っておけないんだよ……っ!」


 がむしゃらに、オレは自分の高校へと急いだ。



 寒さなんか関係なかった。

白い息で視界が邪魔されるけど、それすらも吹っ飛ばすようにひたすらペダルを漕いだ。


 この愛車で、あの学校を目指すことももうなくなる……。

そんなことを考えることも出来ないほど。


オレの頭の中は、無邪気なチビ助が雛太くんにたぶらかされる妄想でいっぱいだった。



 喫茶店の裏を通り越して、商店街を横目に緩やかな坂を抜けて。

どんより分厚い雲が広がる我が学び舎を目指していた。




 キキッ、

細いタイヤにブレーキを強く利かせ、肩を激しく上下させながら、オレは通いなれた学校を目の当たりにしていた。

まだ人はまばらで、電話越しできいていたよりかは落ち着いてはいたけど、興奮気味の様子は未だ衰えていない。


そんな中で、ぽつんと校門に寄りかかる二つの影。


「……はぁっ、はぁ…、ち…ビ助」


 荒い呼吸で自転車を押しながら近づくと、しょぼんと揺れていたクセ毛が飛び跳ねた。


「た、太一さんっ」
< 469 / 506 >

この作品をシェア

pagetop