フォーチュンクッキー
 雛太の自転車は、学校の裏にこっそり止めておいたらしい。

シャーっと車輪の音を立てながら一気に商店街を潜り抜け、緩やかな坂を上ってさらに下った。


 その先に、赤と白の人工的な紙花で彩られた看板があった。


「…ぜぇ、…早く……いけよ…」

 ゼーハーと肩で思い切り息をする雛太は、ぐったりとハンドルに突っ伏す。

そんなになりながらも、あたしの背中を押してくれた。


「うん、ありがとう……雛太…」


 申し訳ないと思いつつも、その想いを無駄にしたくないから、あたしは花びらの門をくぐる。



 入ったその先は、すでに人が溢れかえっていた。

あたしの憧れる制服を身に纏った人たちが、涙し、笑って。


 写真を取り合ったり、アルバムに寄せ書きをしたり……一週間後の自分を、すこし重ねていた。


 そんなときだった。


「あら?卒業式、終わっちゃったけど?」

 聞いたことのある声音に振り返ると、そこにはいつも結っている髪をさらりと下ろしたサトさんがいた。


「あ、ごっご卒業…おめでとうござますっ」

 準備していた言葉をなんとか口にして、ぺこりと思い切り頭を下げた。


 ゴザイマス、ときちんと言えなかったのは家に帰ってから反省だ。

とほほ、と小さく肩を落としていると、思いのほか、返ってきたのはカワイイ笑い声だった。


「太一なら、ほら…あそこ」



 細い指で差された先には、花びらの雨の中に一人の男の人を数人が囲んでいた。

逆光で目を凝らすと、浮かび上がってきたのは、女の子に囲まれた太一さん。


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