フォーチュンクッキー
 しかし、その長い人差し指はシャツではなく、緑とシルバーのストライプ柄のネクタイの結び目に引っかかった。

引っ張られてそのままスルリ、と外され、ネクタイはしなやかに宙を舞った。


「オレもさ、こんなことしかできないけど─……」


 額に、暖かい吐息がかかる。

屈んだ太一さんの息遣いが、やけに耳に響いて心臓がドクドクと血液を送り出す。


 それだけでドキドキしちゃうのに、長い指はあたしの首筋をすり抜ける。


 ぎゅっと目をつぶった瞬間。

優しい指先は、あたしの白いブラウスの襟に触れた。


「これは男女兼用だから」


 首もとにはすこし苦い香りを潜ませたネクタイが綺麗に絞められた。


 あたしは驚きで、そっと震える手で触ってみた。

つるりと滑らかな感触が、不思議と心をくすぐるよう。



「オレからの合格祝い」


 くすっと目を細めた太一さんに、胸が締め付けられるばかり。



 三年間、太一さんと過ごしたネクタイ。

その時間を、あたしにくれたみたいで嬉しかった。


「ありがとう……ございます」


 今こそ、チャンスかもしれない。

きちんとキモチを伝える、瞬間が─……


 ドキン、ドキン。

心臓が耳で騒ぎたて、ごくんと唾を飲み込み、お腹に力を入れて口を開く。


「あの、太一さ……」


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