フォーチュンクッキー
 決意、哀しく。


「平山ーっ」

 折角振り絞った勇気は、背後から響く誰かの声にかき消された。


 おかげで、引き裂くように訪れた沈黙。

あたしは魂を引き抜かれるような錯覚に襲われた。


「…悪い、呼ばれてるから…」

 声が届かなかったのか、ぽんと頭の上に手を置いて、そのまま背中を向けて走っていってしまった。


 タイミングの悪さは、ピカイチかもしれない。

己の悪運を嘆いていると、ふふ、と笑い声が頭上から漏れた。


「なるほどね」

 サトさんは、何かに納得していた。


 動揺を隠し切れないでいるあたしにはサッパリわかるワケがなくて。

桜の花びらから覗かせる光を背負った、その整った顔を見上げるしかできなかった。


「シャツのボタン一つ、誰にも渡さなかった理由が分かったわ」


 長い睫を伏せがちに、チラリと意味ありげに見下ろされた。


「え……?」

 そんな風に言われると。

さすがのあたしでも、自分勝手な自惚れの理由しか考えられなくなっちゃう。



 ちらちらと、隣と太一さんの背中を見比べていた。

その視線に気づかれ、サトさんには「なに?」といわんばかりに見つめ返される。


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