フォーチュンクッキー
 あたしは知っている。

今もいるかは分からないけど、少し苦くて温かい香りの中にいたあの人。


「今度、未来も連れて行ってあげるよ」

 お父さんの優しいその言葉に素直に甘えた。


「……うん」


 凛子さん、というのはあたしのお母さん。

事情があって……今は入院している。


 お父さんは週一・二回会いにいっている。

けれど、あたしは月に一回程度しか会えていない。


 あたしに会うと、お母さんは疲れてしまうから───…



「あ、そうそう。未来が作ってくれたクッキー、お店のお兄さんにあげちゃったんだ」

 落ち込みかけたあたしに、お父さんは思い出したように向き直った。


 申し訳なさそうに言うけれど、あれはお父さんに作ったのに…。

なんて反抗の言葉は、あたしには言えない。


 何一つできないコドモだから。


ゴクリと言葉を飲み込んで、納得したようにお父さんに笑う。


「じゃあ、また作るね」

「ありがとう、未来」


 こくんと頷いたお父さんは、再びチカチカ光るパソコンに向かう。

あたしはというと、まもなく迎える正午のため、台所に立って二人分の食事を作り始めた。



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