フォーチュンクッキー
 制服姿の太一さんに見とれていると、バサっと肩に重さが加わった。

あたしの知っている洗剤の香りがするのは、バスタオルだ。


「軽くシャワーだけでも浴びてきなさい」

 お父さんが両肩にきちんとかかる様に直してくれた。


 折角杏ちゃんや雛太、それに太一さんに会えたのに。

口を尖らせるあたしをよそに、お父さんは太一さんに向きなおした。


「どうぞ、狭いとこですが」

 お父さんは杏ちゃんたちとその後ろの太一さんに向かって中へ促す。


 幼馴染の二人は普通に上がるけど、やっぱ彼は遠慮がちだ。

しょぼくれてタオルの端っこをぎゅっと握ってた。


 そりゃそうだよね。

普通、女の子の家きて、シャワー浴びるなんて聞いたら遠慮しちゃうよ。

 あたしはくるりと背中を向けた。


「…じゃあ、少しだけ」

 靴がすれる音がして、ぱっと振り向いた。


 目が合うとちょっとだけ困ってた太一さんの笑顔。


「ほら、早く戻ってこいよ」

 その言葉の意味は聞かなくってもわかる。


それまでは、ここにいてくれてるってこと。
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