フォーチュンクッキー
 カーテンの向こうで、お父さんの「ありがとうね」っていう声が聞こえる。



話って…もちろん太一さんのことだよね。



 楽しそうな杏ちゃんの先ほどの顔は聞かなくても物語っていた。

さっさとパジャマを脱いでシャワーの蛇口をひねった。


 そういえば杏ちゃんと雛太には、太一さんのこと一つも話していなかった。

授業が終われば二人は部活と塾だったから、あたしがそのあとどうしてるかなんて話にはあがることはなくて。

特に恋の話が大好きな杏ちゃんには、尚更興味があるのかもしれないけど。


 手早くシャワーを終えて、言われたとおりパジャマの上に薄いカーディガンを着込む。

 シャッと軽い金属音を立てて、脱衣所のカーテンを開いた。


 テーブルには4つの椅子しかないから、お父さんはパソコンの前に座ってた。

人がこんなに着ているから落ち着かないのか、さっきみた画面と同じだ。

あたしが出てきたのを確認すると、ようやく画面に見入ってカチカチと音を響かせた。

 ああなったら、もうお父さんは当分没頭するから、何したって気づかないんだよね。


 いつもあたしが座っている席に太一さんがいて、そんな些細なことが嬉しい。


 肩にタオルをかけてその端っこで毛先を軽く拭きながら、ちょこんと隣に座る。
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