真夜中の果て  ー文芸部コンビの事件帳ー

「……だって、有沙にアリバイを聞いただろ?」



さっきはフルネームで加瀬さんの名前を言ったのに、滝口くんは今、ファーストネームを呼び捨てにした。



(もしかして、滝口くんの噂の恋人って……)



「加瀬さんと親しいんですか?」
と、息吹ちゃんが聞いた。



「関係ないだろ」

「関係ないですけど、尋ねちゃダメですか?」

「……柴田さんって」
と、言った滝口くんが俯く。



「私が何か?」

「……思ってたより強者だなって思っただけ」



そう言った滝口くんから、さっきまでの怒りの表情は消えていた。



「本当にあんたらじゃないんだな、落書きの嫌がらせ」

「違います。私達じゃない」

「あんたらの嫌がらせだって聞いたから……」



滝口くんがそう言って、口をつぐんだ。



「誰にですか?」
と、息吹ちゃん。



「誰でもいいだろ」

「いいえ。身に覚えのない疑いをかけられたんです。誰でもいいわけない」

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