真夜中の果て ー文芸部コンビの事件帳ー
「逃げた?」
息吹ちゃんが尋ねる。
「時田の突き落とそうとする手から、体をひねって、よけるように逃げたんだ。その代わり、バランスを失った時田が落ちかけたみたい」
「『落ちかけた』?」
滝口くんは頷く。
「寸前で時田は有沙の腕にしがみついて、どうにかバランスを取ろうとしていたらしい。でも、有沙は助けなかった。有沙の腕にしがみついている時田の手を……、振り払った」
「!!」
「それで、時田は……、落ちたんだよ」
どう言っていいのかわからず、私達は黙っていた。
しばらくして、息吹ちゃんが滝口くんに聞いた。
「滝口くんはその時、本校舎から出てきたんですよね?」
「……そう、ふたりが屋上に行ってすぐ、俺は本校舎に行って職員室で事情を話すか迷っていた。先生を連れて行ったら、また時田が逆上するかもと思うと、決断出来なくて」
「……」
「でも、有沙が心配で、俺ひとりでもやっぱり屋上に行くべきだって思った。本校舎から出た時に、聞こえた音でゾッとした」