真夜中の果て ー文芸部コンビの事件帳ー
「どうして市川さんだと思うの?」
と、寧々様が聞く。
息吹ちゃんは困ったように眉毛を下げて、
「橋谷先生が、市川さんの嘘に付き合ったから」
と、言った。
「嘘?」
と、門倉さん。
息吹ちゃんは簡単に説明を始めた。
市川さんが私達に嘘をついたこと。
その嘘は橋谷先生を巻き込むものだったこと。
橋谷先生に確認をしに行ったけれど、先生は本当のことを言わず、市川さんの嘘をまるで本当のことのように肯定したこと。
「……多分、そんなふうに嘘を共有するのって、特別な関係じゃないのかなって」
息吹ちゃんに門倉さんは頷く。
「……私は部活終わりに、美術室の鍵を閉めることが多いんだ。でも、橋谷先生が美術部に顔を出す日は、橋谷先生が鍵を閉めるって言う。その日には必ず、市川 櫻子さんが美術室にやって来る」
そう言う門倉さんの眉間には、シワが寄っている。
「あのふたり、何かあると思ってた。でも私には関係ないからって、特に気にするのをやめたの」