【短】みやまの花嫁
永悟がいなくても、楽しいかもしれない。




****



歩き疲れて境内に戻ると、拝殿の前の舞台が目に入って、吸い寄せられるように近付いた。

今日の舞が終わったら、“嫁入り”の時間になる。




「……」




わたしは、お嫁さんになりたくないのかな。

……ううん。お嫁さんに、なりたい。

だって、それがわたしの運命だもの。


でも、楽しいこともしたい。




「1人じゃ上手く、楽しめなかった……永悟……」




また、教えて欲しい。

楽しいこと、いっぱい。


でも……もう、会えないんだよね……?




「……」


弥世(やよ)!」




びっくりして、肩が跳ねた。

この声……永悟……?


信じられないような気持ちで、ゆっくり振り返ると、左手を取られた。
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