婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
思わず大声を上げた。令嬢らしくないはしたない声に驚いたのか、周囲の人たちは目を丸くしてしんと静まり返った。……辺境伯以外は。
「えぇっ!? 聞かされていなかったのかぁっ!?」と、彼は大袈裟なくらいに大きな声で尋ねる。地声なのかもしれないけど、傷口に響くようなうるささだった。なんだか頭が痛いわ……。
「わたしは……特には……」
「おいおいおい! なに考えているんだ、王宮は!」と、彼は大仰にのけぞる。
「……ねぇ、静かにしていただける? わたし、ずっと眠っていて、まだ身体が……」
「おっと! 悪い悪い! その身体で長旅は辛かっただろう? さぁ、屋敷で手当をしよう!」
「きゃっ!」
辺境伯はわたしが返答する前に、出し抜けにわたしの身体をひょいと持ち上げた。急激に彼と顔が近くなって、たちまち頬が熱くなる。
「なっ……なにをするのです!? 離して!」
「こんなに大怪我した令嬢を一人で歩かせるわけないだろう? 大丈夫だ、俺は水魔法が使えるからすぐに治してみせるさ!」
「そういう問題ではなくて……未婚の令嬢がこのように殿方と接近するのは品のないことなのです」
「まぁ、別にいいんじゃないか? これくらい。俺たち夫婦になる仲だし」
「へぇええぇっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出て、身体が痺れた。一瞬で世界が凍り付く。
い、今……彼は、なんて……?
わたしが目を見張って口をぱくぱくしていると、辺境伯は首を傾げて、
「あれ? 本当になにも聞いていないのか? 俺たち、王命で結婚することになったんだぜ?」
満面の笑みで言い放った。
そして勝ち誇ったかのように、したり顔でばっと親指を立てる。
「………………」
わたしは少しの間だけ押し黙って、
「えええぇぇぇぇぇぇえええっっっ!!」
またもやまたもや、令嬢らしからぬ大声を辺境中に響かせたのだった。