婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
「よしっ! 終了!」
彼が両手を叩くと、水の塊は泡みたいにパッと消えた。
わたしは、元通りのベッドに横たわった形になる。
「とりあえず傷は治療したけど、疲労やらなんやらはまだ残っていると思うから、落ち着くまではしばらくは安静だな」
気が付くと、ずっと苦しかった身体が軽やかになっていた。彼の言う通り、あんなにズキズキと痛んだ傷だらけの肉体は、すっかり元の状態に戻っていたのだ。
「あ……ありがとうございます……」
「なぁに、これくらい」彼はけたけたと豪快に笑う。「本当はすぐにでも歓迎会を開きたいけど、それは君の傷が全て完治してからにしようか。――病は気から、だからな!」
「あ……」
恥ずかしくなって顔を伏せる。二の句が継げなかった。
おそらく、彼は王都で起こった事件を知っているのだと思う。わたしが、惨めにも王太子殿下から婚約破棄をされたことを。
身体の傷は癒えても、心の傷は本人の気持ち次第だから……。
「じゃ、早く元気になってくれ!」
もごもごと狼狽えていると、彼はわたしの頭をちょんと軽くつついてから、踵を返した。