婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
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「…………」
辺境伯から僅かに触れられた額が熱かった。懐かしい気持ちに胸がじんと温かくなる。
彼――デニス・アレッド辺境伯のことは鮮明に覚えていた。
彼が王宮で迷子になっていたところを、夜会の会場まで連れて行ったんだっけ。
あの頃はもうトマス様の婚約者として厳しい王妃教育を受けていて、周囲からも未来の王族だと扱いを受けていて、気軽に会話できるような人物も皆無だった。
まだ幼かったわたしは、好奇心で彼に話しかけたのだ。
彼はよく喋ってよく笑う人で、会場までの少しの時間だったけど、強く記憶に残っている。未来の王妃だと忖度しない彼とは、自然に会話が生まれて、とっても楽しかった。
お母様から「はしたないから決して片えくぼを見せないように」って、いつもきつく言われていたのに、それも忘れてケラケラと笑っちゃって、あとで誰かに見られなかったかヒヤヒヤしたわ。