婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
「……どういうことですの?」
わたしは消えそうな声を振り絞って、トマス様に尋ねた。不意をついた彼の不穏な宣言に、一瞬だけ頭が真っ白になったが、ここで負けてはならないと思ったのだ。
鏡がわたしを見ている。
その表層に映る自分の姿は、凛とした立派な公爵令嬢でなければならないのだから。
トマス様は鼻で笑ってから、
「どうもこうも、言った通りだ。オレはお前とは婚約破棄をする。そして、新たにこのリリアン・キャロット伯爵令嬢と婚約することに決めたのだ!」
彼の朗々とした声が鏡に反響して、わたしに鋭く降り注いだ。無慈悲な残響が耳に残って、胸に刺さる。
ついに、この時が来たのね。
はじめに浮かんだ感想はそれだった。こうなることは分かっていた。
トマス様とキャロット伯爵令嬢が恋仲にあること。
そして……幼い頃から王妃教育を受けてきた自分より、彼女のほうが王妃になる適正があるということ。
全部、分かっていたのだ。