婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜


◆ ◆ ◆




「きゃあぁぁっ! なによ、これっ!?」

 もう何度目か分からないわたしの悲鳴が周囲に響く。

「うるせぇな。これくらいでいちいち騒いでるんじゃねぇよ、中央貴族が」

 そして、隣の悪態も一揃いに響く。声の主は、ブレイク子爵令息。辺境伯の側近を務めているらしい。ちなみに、彼の父親は屋敷の家令だ。

「こっ、こんなのっ……王都には存在しないわ!」

「だらしねぇんだよ、中央の奴らは」

 噂には聞いていたけど、辺境は魔境のような土地だった。

 ここは、魔物出没の区域との境目で、常に戦闘の最前線だ。
 魔物は闇の力の影響を受けた瘴気を好むので、ここは当然王都よりも濃度が高くて、空も紫色に染まって、なんだか不吉だった。

 そして、王都では見られない複雑怪奇な生態系。見たこともない大きなカエルや、蔓の長い植物、よく分からない形の生物のような物体……王都から出たことのないわたしには、驚きの連続だったのだ。

「っかぁ~! こんなんで辺境伯の妻としてやっていけるのかよ!」

「それくらいにしておけ、ブレイク。マギーが困っているだろう」

「へいへい」

「マギーも、ゆっくりと慣れればいいよ」

「そ、そうね……。王都とは世界が違って驚いたわ」

「またまた、大袈裟だなぁ」

「本当よ」

「どうせ箱入り娘だから知らねぇだけだろ」

「わたしは王妃教育を受けて来たのよ。辺境の瘴気のことは授業で習ったわよ!」

「実物は初めてじゃん」

「ブレイク~」

「へいへい」

 強がってみたものの、一抹の不安が頭をよぎる。話に聞いていたよりも、辺境の環境は過酷だった。
 子爵令息の言う通り、わたしはここで自立してやっていけるのかしら……?

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