婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
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「きゃあぁぁっ! なによ、これっ!?」
もう何度目か分からないわたしの悲鳴が周囲に響く。
「うるせぇな。これくらいでいちいち騒いでるんじゃねぇよ、中央貴族が」
そして、隣の悪態も一揃いに響く。声の主は、ブレイク子爵令息。辺境伯の側近を務めているらしい。ちなみに、彼の父親は屋敷の家令だ。
「こっ、こんなのっ……王都には存在しないわ!」
「だらしねぇんだよ、中央の奴らは」
噂には聞いていたけど、辺境は魔境のような土地だった。
ここは、魔物出没の区域との境目で、常に戦闘の最前線だ。
魔物は闇の力の影響を受けた瘴気を好むので、ここは当然王都よりも濃度が高くて、空も紫色に染まって、なんだか不吉だった。
そして、王都では見られない複雑怪奇な生態系。見たこともない大きなカエルや、蔓の長い植物、よく分からない形の生物のような物体……王都から出たことのないわたしには、驚きの連続だったのだ。
「っかぁ~! こんなんで辺境伯の妻としてやっていけるのかよ!」
「それくらいにしておけ、ブレイク。マギーが困っているだろう」
「へいへい」
「マギーも、ゆっくりと慣れればいいよ」
「そ、そうね……。王都とは世界が違って驚いたわ」
「またまた、大袈裟だなぁ」
「本当よ」
「どうせ箱入り娘だから知らねぇだけだろ」
「わたしは王妃教育を受けて来たのよ。辺境の瘴気のことは授業で習ったわよ!」
「実物は初めてじゃん」
「ブレイク~」
「へいへい」
強がってみたものの、一抹の不安が頭をよぎる。話に聞いていたよりも、辺境の環境は過酷だった。
子爵令息の言う通り、わたしはここで自立してやっていけるのかしら……?