婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
――わしゃわしゃわしゃっ!
出し抜けにわたしの身体を包み込んだと思ったら、大きな両手で頭をくしゃくしゃと乱した。
「なっ、なにするのよぅっ!」
わたしは彼を睨め付けながら抗議するが、彼の攻撃は止まらない。わちゃわちゃと激しく頭を撫でまくる。
「どうだ! 参ったかー!」
「参った! 参りましたからもうやめて――きゃあぁっ!!」
何度目かの懇願で、やっとのことで彼は手を止めた。
わたしは、騒いだ余韻が残って、肩で息をする。つ、疲れた……。
「よしっ、俺の勝ちだな」と、彼はふふんと嬉しそうに笑ってみせた。
「なんの勝ち負けですか」
その余裕綽々な態度が癪に障って、わたしはむっと口を尖らせた。
もう、本当に信じられないわ。仮にも24歳の辺境伯が子供みたいにっ!
「賭けに勝ったらもっとやってやるからな!」
「絶対にわたしは負けないわよ!」
辺境伯は愉快そうに笑いながら去って行った。
残されたわたしは、呆れ返ってしばらくその場に立ったままだ。
「……!」
不意に、鏡台に映る自分と目が合う。
ボサボサの髪と少し乱れた寝衣姿は、立派な公爵令嬢とはかけ離れた酷く無様な有様だった。
でも……不思議と嫌な気はしない。