婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
「そうよ!」わたしは両腕を大きく広げる。「ここに小屋を建てて、あと畑を作って家畜も飼うの。自給自足で、わたしは一人で生きていくのよ!」
「それは面白そうだな」
「だから、辺境伯様も自由にしてちょうだい。わたしはお飾りの妻になるから、あなたは真に愛する女性と一緒になればいいわ」
「はぁっ!?」と、彼は顎が外れたみたいにぽかんと大きく口を開けた。
「え? だって、ずっとここで生きていたのだから、恋人の一人や二人いるでしょう? わたしは気にしないからどうぞご自由に」
「いや……俺に特別な人はいないが…………」彼は手を顎に当てて少し考え込んで「いや、一人いるか……」
「ほら、いるじゃない! だったら、その方と――」
「それは、マギーのことだよ。君が俺の大切な人だ。俺の奥さんになる女性だからな」
「なっ……!?」
にわかに辺境伯が真顔になる。わたしをじっと見つめる力強い眼差しが、瞳を擦り抜けて胸の奥へと潜って行くようだった。
すると、矢庭に身体がかっと熱くなって、胸がばくばくして、視界がぶれた。
「こっ……」やっとの思いで口火を切る。「これから小屋作りを始めますので、部外者は出て行って!!」
なぜだか急激に恥ずかしくなって辺境伯の顔をまともに見れず、わたしは彼の背中をぐいぐい押して退出を促した。
「はいはい。じゃあ、後で迎えに行くよ」
「一人で帰れるわよ! もうっ、あっち行って!!」