婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜



「トマス様、婚約破棄は正当な理由の上でしょうか? 国王陛下はご存知なのですか?」

 それでも、今この場では、彼らに負けたくなかった。
 わたしは理想の堂々たる公爵令嬢の姿を鏡に映しながら、厳しい声音で問い糺す。

「ち……」トマス様は僅かに怯んでから「父上には全てが終わったら報告するつもりだ」

 案の定、彼の独断での行動なのね。一国の王太子が、呆れて言葉も出ないわ。

「順序が違いますわ。まずは国王陛下に――」

「それは聖なる大鏡に判断してもらえばいい。国王より、女神スペクルムにな」と、彼は大鏡を仰ぎ見た。

 鏡は、真実を映す。
 わたしたちにとって、王よりも国よりも、なにより女神の意思が大切なのだ。

 ……しかし、今回は分が悪い。
 キャロット伯爵令嬢は、聖女の力に目覚めたと専らの噂だった。
 即ち、その噂が事実なら、女神は彼女の味方をする可能性が高いのだ。
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