婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜



「へいへいへい! 待たせたな!」

 その時、お誂え向きにも辺境伯がやって来た。彼は台車を引きながら戻って来たのだ。

「な、なんですの?」と、わたしは目を丸くする。

 彼はニッと笑って、

「小屋を作るには道具が必要だろう? だから使えそうなものを持って来た!」

「斧も……」と、わたしは思わず呟く。

「斧? あるよ。はい、どうぞ」

 彼は笑顔で斧を差し出した。

「…………」

 わたしは身じろぎせずに、困惑顔でその場に立ち尽くす。

「ん? どうした? 小屋を建てるのに木を切らなきゃいけないんだろう? あっ、ひょっとして使い方が分からない? じゃあ、俺が――」

「駄目よ。受け取れないわ」と、わたしは差し出した手を押し返した。

 彼は目をぱちくりさせて、

「なんで?」

「なんでって……わたしは自立をするって決めたんですもの。まずは斧を作ることから始めなきゃ」

「はあぁっ!?」

 唖然としてこちらを見る彼を横目に、わたしは得意げに持論を述べる。

「自立とは、身の回りのことを全て己でまかなうことなの。そこに他人の手が加わったらいけないわ。だから、斧を作らなきゃ! ねぇ、鉄はどこにあるのかしら?」

「あー……、まずは鉱山だな」

「では、鉱山へ――」

「うわあぁぁっ!!」
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