婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
ふと、視線を感じた。
見ると、わたしの周りを鏡がぐるりと囲んで、険しい視線を送っている。
トマス様はにやりと笑って、
「真実は女神が知っている。――さぁ、裁判をはじめようか。真実の、な」
わたしは、背筋を伸ばして彼を正面から見据えた。
鏡の前で、弱々しい姿を見せてはならない。最後まで公爵令嬢として、恥ずかしくない姿を映さなければ。
少しだけ息を吐いてから、
「わたしは疚しいことなど何一つ行っておりませんわ」
己を奮い立たせるために、きっと彼を睨んだ。
「どうだか? お前、随分リリアンのことを疎ましく思っていたようだからな」
「それは……!」
ぐっと唇を噛む。言葉が出なかった。
それは……事実だからだ。
「ほうら見ろ! お前は、リリアンに嫉妬して彼女に多くの嫌がらせをしていたな!?」
「そんなこと――」
たしかに、わたしは彼女の才能に悋気を覚えていた。
でも、嫌がらせなんて、卑怯なことは決して行っていないわ。
「言い訳はいい。ただ一つ確実に言えることは……お前など王太子妃に相応しくないということだっ!!」