婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜

 その時、にわかに身体がふわりと宙に浮いた。

「きゃっ――何をするのっ!?」

 それは、辺境伯がわたしの身体を包み込むように持ち上げたのだ。

「このままじゃ風邪をひく。一旦屋敷に帰って湯浴みをしようぜ」

「……っ」

 わたしの全身は、スペクタルカメレオンの粘液で、べちゃべちゃでどろどろだった。

 彼はわたしの返答も待たずに、すたすたと馬のほうへ向かって行く。硬質な肉体の彼から優しく抱きかかえられて、頑丈な肉体のはずなのに、なんだか柔らかく感じた。

 心地良いけど、このままじゃ――……、

「ま、待って!」

「ん? どうした?」

「このままでは、あなたまで汚れちゃうわ。一人で歩けるから、離してちょうだい」

「はっはっはー! これくらい何ともないぜー!」

「でも!」

「普段から魔物の返り血を浴びているから、平気だよ」

 そう言って彼はわたしを決して離さずに、屋敷まで連れて帰った。


< 41 / 95 >

この作品をシェア

pagetop