婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
その時、にわかに身体がふわりと宙に浮いた。
「きゃっ――何をするのっ!?」
それは、辺境伯がわたしの身体を包み込むように持ち上げたのだ。
「このままじゃ風邪をひく。一旦屋敷に帰って湯浴みをしようぜ」
「……っ」
わたしの全身は、スペクタルカメレオンの粘液で、べちゃべちゃでどろどろだった。
彼はわたしの返答も待たずに、すたすたと馬のほうへ向かって行く。硬質な肉体の彼から優しく抱きかかえられて、頑丈な肉体のはずなのに、なんだか柔らかく感じた。
心地良いけど、このままじゃ――……、
「ま、待って!」
「ん? どうした?」
「このままでは、あなたまで汚れちゃうわ。一人で歩けるから、離してちょうだい」
「はっはっはー! これくらい何ともないぜー!」
「でも!」
「普段から魔物の返り血を浴びているから、平気だよ」
そう言って彼はわたしを決して離さずに、屋敷まで連れて帰った。