婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
はっと目を見張る。彼は、不安げにわたしの瞳を覗き込んでいた。
「わたし……そんな顔なんて」
「気付いていない? 君はここに来てから、時々ふっと悲しげな表情を見せるんだ。夫として、君の憂いた感情は取り除きたいと思ってな。妻にはいつも笑って欲しいから」
いつもヘラヘラしてふざけている彼の稀に見る真剣な眼差しは、私の胸を強く掴んだ。
たちまち頬が熱くなる。こんな風に見られたら、嫌でも話さざるを得ないじゃない……!
「わたし……王太子殿下から婚約破棄をされたの」
「……らしい、な。悪いが、王都で起こったことを調べさせてもらった。浮気者の最悪な王子だ。俺は軽蔑するね」
「でも……わたしなんかよりも、キャロット伯爵令嬢のほうが王太子妃に向いているのは事実よ」
「なんで?」と、彼は目を瞬く。
「わっ――わたしを見れば分かるでしょう? 不適格なのよ」
「どこがだよ。俺はそんなこと思わないけど」
「あなたは、王都でのわたしを知らないから……。だから、誰も知らないこの土地で自立して一からやり直そうって思ったの」
ぎゅっと唇を噛む。我ながら卑怯だと思った。本当は王都で名誉挽回をすべきだったのに、わたしは王命に甘んじて逃げているからだ。
「なるほど。――で、王都でなにか問題でも起こしたのか?」
「そんな……」