婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
わたしは口ごもった。
これでも、トマス様の隣に立てるように、努力をしてきたつもりだ。彼の婚約者に決まった瞬間から、気を抜くことは許されなかった。
でも――……、
「わたしは、社交が苦手なの。どんなに頑張っても、どうしても上手くいかなくて。いつも空回りで。だけど、立派な未来の王妃になるためにしっかりしなきゃ、って……」
ぽろり、と涙がこぼれる。思い出したくもない過去が頭に浮かんで来て、惨めな気分になった。
すると、彼の手がわたしの頭に伸びて、そっと撫でて来た。
「彼女は――キャロット伯爵令嬢は違ったわ。天性の人心掌握術でも持っているみたいに、みるみる人の心を掴んで……。彼女が笑っていると、そこに向日葵の花が咲いたかのように、周囲を明るく照らしていたわ」
「だから、君は王妃に向いていないって?」
「そうよ。わたしには、素質がなかったの。取り巻きの令嬢たちも、今ではキャロット伯爵令嬢にお追従を言っているわ」
「それは伯爵令嬢を王太子が寵愛しているからだろう。彼女たちは権力のおこぼれを貰おうと必死なんだよ。貴族らしいな」
「……」
「それに、王妃の資質は何も社交術だけじゃないさ。ただパーティーで喋っているのが王妃ではない。王妃の真の仕事は王太子の裏方役として、影から王家と民を支えることだ。君はそれが十分できていたんじゃないか」
「それは……」