婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜

 ぼんやりと王都の暮らしを振り返る。
 トマス様はキャロット伯爵令嬢との逢瀬に忙しくて、政務が疎かになっていた。このままでは臣下たちが困ると思って、わたしが全ての後始末をしていたんだっけ。

 彼は目を細めながらこちらを見る。

「あと、君は社交が下手だと言っているが、特に問題なく出来ていると思うぞ。もし、苦手意識が拭えないのなら、人を使えばいい。パーティーの際に、社交の能力の高い信頼できる者を側に置くんだ。適材適所に配置するのも上に立つ者の仕事だ。臣下が活躍できるように仕事を与えるんだよ」

 わたしは大きく目を見張る。それは、固い殻に覆われた種子が弾けたような、衝撃的な言葉だった。

 そんなこと、考えてもみなかったわ。
 これまでずっと、ただ自分がしっかりしなきゃって、ぐじぐじ悩んで。

 自分は、周りに配慮ができていなかったのかもしれない。立派な王妃になるために……って、独りよがりで視野狭窄で……これでは、周囲もわたしに付いて来ないわよね。

「わたし、自分のことだけしか考えていなくて……」

 その時だった。

 ――ぐうぅぅぅぅ~~~……。

 大きなお腹の音がわたしの言葉を遮ったのだった。
< 47 / 95 >

この作品をシェア

pagetop