婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
「小屋を作り始めてから、お腹が空くことが多くなったの。こんなに動いているのは生まれて初めてだからかも」
「マギーが木を切るのを頑張っている証拠だよ。さぁ、いっぱい食べてくれ」
「辺境のお料理は凄く美味しいわ。あのゲテモノは遠慮したいけど。――あら、今日の味付けはいつもと違うの?」
「おぉっ、よく気付いたな。今回は俺の母親が作ってくれた料理なんだ」
「辺境伯のお母様……。たしか、隣国の第三王女だったかしら? お妃教育で学んだわ」
「そ。母上の郷土料理ってやつだ。でも、なぁ~……」
彼は眉根を寄せながら首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、レシピが残っていないから乳母と協力して記憶を頼りにして作ったのだが……なにか足りないんだよなぁ~」
「そう? とても美味しいけど」
「たしかに旨いんだけどさぁ……こう、なにか決め手となる食材が入っていない気がするんだよー。マギー、分かる?」
「そうねぇ……。隣国のハーブは極狭い地域にしか自生していない希少な種類もあるのよね。その可能性が高いかもしれないわ」
彼は目を見張って、
「それかもしれない! よく分かったな!」
「……たまたま、よ。王妃教育の一環で、各国の歴史や文化などについても学ぶから」
「凄げぇな、王妃教育!」
「でも、味までは分からないわ。――そうだわ! あとで図書館で調べてみる!」
少しだけ口元が緩む。まさか王妃教育が、こんなことに役立つとは思わなかったから。
人生、何が他の物事に繋がるか分からないものね。彼にはお世話になりっぱなしだから、これで少しは恩返しができるかもしれない。
……わたし、ちょっと自立してる!
「サンキュー。助かるよ。じゃあ、隠し味が分かったら改めて俺が君のためにつく――」
――カンカンカンカンカンッ!!
刹那、天を切り裂くような激しい鐘の音が鳴り響いた。
それは、魔物の襲来の合図だ。