婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜




 その時だった。

 ドン――と、神殿の床が持ち上がったかと思うと、突如、ひっくり返したみたいに大地が激しく揺れ始めた。

「きゃあぁぁっ!! トマス様っ!」

「リリアンっ!」

 愛する二人は抱いながら、床に跪く。ぎゃあぎゃあと猿みたいにうるさかった。

「なんなの……!?」

 一方わたしは、なぜだか立ち上がったまま、身体が硬直してその場から動けなかった。
 断末魔のような激しい揺れは続く。
 でも、わたしの肉体は、不思議にも銅像みたいにびくともしなかったのだ。

 ――バリバリバリッ!!

 刹那、耳をつんざくようなけたたましい金属音が鳴って、わたしの目の前にある聖なる大鏡が…………、


 儚くも、粉々に割れた。


 破片はまるで雨のように、乾いたわたしの全身に降り注ぐ。
 それは、時間の動きがゆるやかになったかのように、ゆっくりと、でも確実にぐさぐさと肌に突き刺さって――、


 わたしの記憶はそこで途切れた。

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