婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
8 魔物襲来
――カンカンカンカンカンカンッ!!
切迫した金属音が周囲に鳴り渡る。
驚いた鳥たちが勢いよく飛び立って、突風が吹いたみたいに激しく木々が揺れた。
「敵襲か……!」
にわかに、辺境伯の顔付きが変化する。普段のヘラヘラした緩い表情とは打って変わって、それは戦士としての精悍な顔だった。
「マギー、すぐに避難してくれ。悪いが屋敷まで送り届けることはできないが、頑張って向かってくれ」
「わたしは一人で大丈夫よ。あなたは自分の役目だけを考えて」
「済まない。じゃあ、また後で!」
「ご武運を……!」
辺境伯は全速力で駆けて行った。その間も、鐘の音は警告を告げ続けている。
わたしもさっと荷物をまとめて、屋敷へと早足で向かった。
鉛のような重たい不安が、胸に伸し掛かる。なんだか嫌な予感が拭えなかった。
辺境に来た時に、魔物について教えてもらった。
今の鐘は、最大警戒を表す音だ。おそらく、とても手強い魔物が出現したということ。
こちらに来て小さな襲撃は何度か経験したことがあるけど、辺境伯があんなに緊張感で顔を強張らせているのは初めてだった。
どうか、何事も起きませんように……。