婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
◆ ◆ ◆
「なんだよ、これ……!」
「強すぎるっ!」
辺境の兵士たちは酷く焦っていた。
湖から突如現れた魔物は――巨大なドラゴンだった。ちょっとした屋敷くらいの大きさのそれは、物理攻撃も魔法攻撃も弾いてまるで歯が立たなかったのだ。
彼らはさっきからどうすることも出来ずに、ともかく街を守ろうとひたすら防衛にあたっていた。
「悪い! 遅れた!」
「デニス様!」
「辺境伯様!」
しばらくして、デニスが到着する。すると、萎えた戦場に再び士気が戻った。
「状況は?」とデニス。
「はい。10分ほど前、湖から突如ドラゴンが現れて、刃も魔法も攻撃を通さず、一方的に破壊されております」と、側近のブレイク子爵令息が直ちに答える。彼は主が到着するまで現場を指揮していた。
デニスは眉根を寄せて、
「あちら側からのお客さんか……」
ふぅっと深く息を吐いた。
「そのようで……」と、子爵令息は顔をしかめる。
辺境に現れる魔物には、大きく二種類がある。
現地の魔の瘴気に棲み着く魔物、そして鏡を伝って突如出現する魔物だ。
鏡を司る女神スペクルムの恩恵で、鏡には不思議な力が宿っていた。
それは、「映す」ことの出来る水も同様で、この国では水が神聖なものとされている。
魔の力を蓄えたそれは、時折り集約しすぎて溢れた瘴気が暴走して空間を歪ませ、魔物を出現させるのだ。
その威力は現地に生息する天然の魔物より強大で、討伐するのに困難を要した。
しかも、今回はただでさえ厄介とされるドラゴンだ。膨大な魔の瘴気を蓄えたそれは、並大抵の攻撃には響かなかった。