婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜

 ふと視線を感じて彼の顔を見ると、デレデレと締まりのない顔をしながらわたしを見ていた。

「な、なに?」と、わたしは思わず顔を背ける。

「いやぁ~、やっとマギーが俺の名前を呼んでくれたって思って!」

「あっ、あれはっ……!」

 みるみる頬が熱くなった。改めて指摘されると……は、恥ずかしいわ…………。

「あれは……たまたま、ですわっ! だって、戦闘中は時間との勝負でもあるから『へんきょうはくさま』なんて長ったらしい名詞を言っている暇なんてないでしょう?」

 しどろもどろに言い訳を並べる。あの時は、彼らを助けなきゃって必死だった。

 前に、デニス様はわたしに「困っている時は俺に頼っていいんだよ。その代わり、領民が困っている時は助けてやってくれ」と言った。彼は優しい人だから、自分ではなくて領民を助けて欲しい、って。

 でも、わたしは領民を助けるのは当然として、彼のことも助けたいと思った。
 きっと、彼は領主として大きな義務と責任を背負っているのだと思う。

 妻になる身として、その半分くらいは一緒に背負いたいと願ったのだ。
 だから、行動しただけ。
 それだけ……よ。

「ははは。じゃあ、『でにすさま』じゃなくて『でにーちゃん』のほうが分かりやすくていいかもな」

「長くなっているじゃない!」

「こっちのほうが言いやすいじゃん」

「別に」

「じゃあ、次からはデニーちゃんでよろしく」

「絶対に呼ばない!」


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