婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜


◆ ◆ ◆




 翌日、わたしは屋敷の図書館へと足を運んだ。目的の本を探すためだ。

 宴の最中に、わたしはデニス様の乳母のマーサと接触した。そして、彼のお母様が作っていた料理について話を聞いたのだ。
 残念ながら、彼女にも詳しいレシピは分からなかったらしい。なので記憶を頼りに作ったそうだ。

 まだ始まっていないのに万策尽きたと落胆していたら、彼女から図書館に隣国の本が収納されていることを教えて貰った。亡き辺境伯夫人が嫁入り道具に持って来た、隣国の言語で書かれている書物があるらしい。

 お誂え向きにも、王妃教育で周辺国の言語は一通り学んでいたから、一縷の望みをかけて読んでみることにしたのだ。



「ここの棚ね……」

 古い図書館の奥の一角に、他と言語が異なる棚があった。
 手でなぞりながら背表紙を読む。ほとんど物語だけど、図鑑や魔法についての書籍も並べられてある。

「あった! これだわ!」

 わたしは一冊の本を手に取る。それはハーブについて書かれたものだった。
 もしかしたら、なにかヒントになる事柄が載っているかも……!

 早速、閲覧室で中身を確認しようと踵を返したが、不意に動く視界の中に気になるものが入って、再び本棚に戻った。
 本を取って空いた棚の奥に、なにやら紙のようなものが挟まっている。

「……?」

 おそろおそる手を伸ばす。無性にそれが気になって仕方がなかった。

「これは……!」

 その文字を見て全身が粟立った。
 そこには「親愛なる未来の辺境伯夫人へ」と書かれていたのだ。
 
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