婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
「わあぁぁぁっ! 母上ぇぇぇぇっ!!」
彼はがっくりと項垂れる。その悲痛な様子を見ていると、ちょっとだけ可哀想になった。
「あの……少しだけなら……ご覧になりますか? レシピくらいなら……」
彼は頭を垂れたまま無言を貫く。
数拍して、
「いや」がばりと顔を上げた。「いくら肉親でも、本人が嫌だと言うのなら引くのが礼儀というものだろう」
「あら、意外に諦めがいいのね」
「まぁ、気になるが……」彼はちらちらと横目でこちらを見ながら「なぁ、手紙にはなんて書いてあった?」
わたしはくすりと笑って、
「とても心のこもった素敵な内容だったわ。レシピと、あなたのことが書かれていたの」
「俺のこと?」
「えぇ。あなたの好きなものや、嫌いなもの。性格や過去のこともね。……デニス様、子供の頃に蜂の巣を攻撃して反撃されておも――」
「わーっ! わーっ! わーっ! 分かった、分かった! もういい! もう十分だ!」
矢庭に彼の顔が真っ赤になる。そして声にならない悲鳴を上げながら、じたばたと動いていた。
その滑稽な様子にほくそ笑む。
これは……使えるわ! 彼から意地悪されたら、手紙に書かれていた恥ずかしい過去を暴露してあげるんだから!
こうして楽しい昼食会が終わったのだった。
今回はマーサやシェフに手伝って――ほとんど作って貰ったけど、いつか自分の力だけで料理を完成させたいと思う。
デニス様の笑顔を――もっと、見たい…………かも。