婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
◆ ◆ ◆
「あぁっ……! トマス様っ!」
「リリー……!」
豪奢な王太子の寝室に、重なる吐息と艷やかな声が響いていた。
王太子トマス・マークスと伯爵令嬢リリアン・キャロットは、マーガレットを追放した後、目出度く婚約を果たしたのだった。
国王は最初は激怒したものの、伯爵令嬢が聖なる力に目覚めたと知ると、掌を返したように二人を祝福した。
……その聖なる力は、王太子と配下の水魔法使いが捏造していたのだが。
ともかく、晴れて婚約者同士となった二人は、まだ式も決まっていないのに婚前交渉に励んでいたのだった。
そろそろ仲良く絶頂に達そうとした折も折、
――カッ!
突如、シルクの布で覆っている姿見の鏡から閃光が走った。
一瞬の光は、部屋中を昼間のように照らして、すぐに暗闇を取り戻す。
せっせと腰を振っていた二人は、突然の光に驚いてピタリと動きを止めた。
刹那、鏡の中から切り裂くような突風が吹く。
それはシルクの布を吹き飛ばして、嵐みたいに部屋中をぐちゃぐちゃと乱した。
「きゃあっ!」
「な、なんだっ!?」
二人は必死に重い木材のベッドにしがみつく。いつの間にか結合部分も離れてしまった。
ややあって風邪が晴れたかと安堵したら――、