婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜


「ありがとう。お陰で吹っ切れたわ。これで過去の自分と決別が出来そう」

 わたしはデニス様に改めて礼を述べた。
 今日のいたずらは彼の優しさなのだと思う。彼はわたしの代わりに復讐をしてくれた。下手をすれば自分に嫌疑が向くかも知れないのに、リスクを負ってまで。

 ……いいえ、彼は初対面の時からわたしに優しさをくれたわ。
 今日まで、もう、ずっと。

「そうか。それは良かった」と、彼は目を細める。

「えぇ。これで、前に進めるわ。……もう、鏡の前で縛られていた立派な公爵令嬢は、おしまいっ!」

 わたしは、思いっ切りくしゃりと表情筋を動かして笑った。
 ずっと封印していた、心からの笑顔だ。
 令嬢が片えくぼなんてはしたないって、お母様から禁止されていた笑顔。

 王太子の婚約者になって、これまで我慢していた。
 例外として、あの夜会の日に王宮でデニス様と会話をした時に見せただけ。それ以降は王都ではポーカーフェイスを貫いた。

 でも、今日でおしまいなのだ。
 ここでは、目一杯笑っていいし、社交も……今は嫌ではない。
 自立した新しいマーガレットは、これからなのだ。
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