婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜


◆ ◆ ◆




「うぅ……」

 寝心地の悪さに自然と目が覚める。
 ガタガタと全身が強く揺らされて、急激に酔いが回っていた。

「つっ……!」

 身体が揺れるたびに、体中に突き刺す痛みが走る。驚いて見ると、腕にぐるぐると包帯が巻かれていた。

「お目覚めになりましたか」

 頭上から冷たい女性の声が響く。
 反射的に顔を上げようとしたら再び痛みが身体を貫いて、思わず呻き声が出た。

「もうすぐ目的地へ到着しますので、しばしのご辛抱を」

 目の前の人物は冷淡にそう言い放ち、すぐに蹄鉄と車輪の音だけになった。
 声のもとへ必死で目を動かす。顔までは見えなかったけど、王宮仕えのお仕着せ姿なのは分かった。

 つまり、わたしは王宮からどこかへ送られている最中だということなのね……。

 目を閉じて記憶を辿る。
 たしか、女神の間でトマス様から一方的に婚約破棄を告げられて、抗議しようとしたところで大地が揺れて、聖なる大鏡が破裂して……。
 この怪我は、鏡の破片が自分に襲いかかった時だ。

 わたしは女神様の逆鱗に触れた、ということ…………?

「うっ……!」

 またもや痛みがわたしを襲った。鋭い痛みに身悶える。
 なんだか寒気までしてきた。この嫌な感じは瘴気によるものかしら。王都と比べたら、魔力の瘴気が濃い気がする。
 よく見えないけど、窓の外から不穏の影が覗き込んでいるみたいだった。

 そうこうしているうちに、自然とまどろんできて、いつの間にか再び眠りについた。



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