婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
◆ ◆ ◆
「デニス様、少しは休んでください!」
眉を吊り上げるブレイク子爵令息を一瞥すると、デニスは再び書物に顔を戻した。
「あぁ。これを読み終わったら一休みするよ」
ブレイクはため息をついて、
「そんなこと言って、今朝から一度も休んでいないじゃないですか。それに、昨夜もほとんど眠っていないようだし、このままじゃあ身体を壊しますよ」
「時間がないんだよ」
「それは……分かっていますけど……」
「あと半刻もあれば読了するから。そうしたら軽食を持って来てくれないか」
「はぁ……承知しました」と、ブレイクは辞去した。
「ふぅっ~~~」
デニスは一人になると、大きく息を吐いて天井を仰いだ。もう何時間も連続で書物を読んでいたので目が痛い。
目頭を軽く揉みながら思案する。凄惨な現状の、突破口になるような魔法を。
彼は、もう数日間もマーガレットに会っていなかった。
ずっと魔物討伐や執務に追われ、そして残りの時間は図書館で過去の文献の調査に全てを費やしていたのだ。
だから、彼女と会えなかったのは忙しかったのもあるが……実のところ、彼女に会うのが怖かった。
いや――…………、
「告げる」ことに、とてつもない恐怖を覚えたのだ。
「マギー……」
彼女のくしゃりとした可愛らしい心からの笑顔が、頭に浮かんでは消える。あの片えくぼは、子供の時を変わらずにチャーミングで……。
歯がゆい思いでいっぱいだった。
無力感、虚無、絶望……名状しがたい混沌とした感情が、彼の胸の奥で渦巻いていた。
まだ、間に合うはずだ。領主である自分が――いや、愛する人のために、自分が何とかしなければ。自分の魔法なら、あるいは…………。
しかし、彼の切実な願いは、叶うことがなかった。