婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
◆ ◆ ◆
あれから数日たって、やっとデニス様がお見舞いに来てくれた。
彼の姿をみとめると、嬉しさで胸がいっぱいになった。
でも、彼は渋面を作って浮かない様子だった。
なんだか、顔色も悪い。最近ほとんど会えなかったし、本当に忙しいのね……。
それなのに、わざわざお見舞いに来てくれて申し訳ないわ。
「お久し振りですわね、デニス様」
緊張で、ちょっと他人行儀になる。
「あぁ」
彼も同じなのか、少しだけ素っ気ない態度な気がした。
「今日は来てくださってありがとうございます」
「あぁ……」彼は一拍黙ってから「その、済まなかったな。中々会いに来れなくて」
「いいえ。魔物が増えて多忙なのだと伺いましたわ。大丈夫ですの?」
「そうだな。まぁ、なんとかなるだろ」
「まさか、わたしを差し置いて勝手に小屋を作っているんじゃないでしょうねぇ?」と、わたしはいたずらっぽく笑う。
でも、彼の反応は予想外にも薄くて、やっぱり心身ともにかなり疲弊しているんじゃないかと心配になった。
「ねぇ、デニス様。本当に大丈夫なの? わたしより、あなたのほうが体調が悪いみたいだわ」
「…………」
彼は、無言のまま、無表情でこちらを見る。
気まずい空気が流れる。
ややあって、耐えられずにもう一度こちらから声を掛けた。
「デニス様……?」
再びの沈黙。不穏な空気がすっぽりと部屋中を包み込んで、ぞわぞわと胸がざわついた。
どうすることも出来ずに、ただ黙って視線を泳がす。時間がたつのが遅くて、得体のしれない不安が堆く積み重なっていく。
少ししてから、
「マギー」
やっと彼が口火を切った。
そして、信じられないことを言ってきたのだ。
彼は、ゆっくりと、重い口を開く。耳を疑うような、衝撃的な言葉を。
「…………帰ろうか。元の世界に」