婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
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数日後、すっかり熱も引いて起き上がれるようになったので、わたしはマーサが引き止めるのを振り払って、デニス様の執務室へと赴いた。
中へ入ってそっと扉を閉めて、正面から彼と向き合う。
青白い顔にげっそりとした様子は、彼の苦悩をまざまざと映しているようで、酷く胸が痛んだ。
同時に、わたしのために頑張ってくれたことを嬉しく思う。
彼は、領主として事実が発覚した時点でわたしを始末しなければならないのに、ここまで譲歩してくれた。……その誠意に応えなければ。
わたしは軽く息を吸ってから、
「帰るわ……。これ以上、領地の皆に迷惑を掛けられないもの」
数拍して、
「そうか」
彼は目を伏せながら低い声で一言だけ呟いた。
その後は二人して口を噤む。ここのところずっと、こういうのばっかりね。
でも……最後は笑顔でお別れをしなくちゃ。
意を決して、わたしから口火を切る。
「ねぇ、最後にお願いがあるのだけど」
「なんだ? なんでも言ってくれ。可能な限り叶えよう」と、彼は寂しそうに微笑む。
「最後に小屋が見たいの。それくらい、いいでしょう?」
「あぁ、もちろんだよ」