婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜

「わたし……本当に元の世界に戻って来たの……?」と、目を見張りながらぼそりと呟く。

 今、ここで繰り広げられている茶番劇は、自分が辺境へ向かう前に経験したものと同じだった。

「おいっ! 聞いているのか、マーガレット!」

 がなり立てる声のほうに視線を送ると、王太子殿下が眉を釣り上げながらぎゃんぎゃんと吠えていた。
 ……そっか。わたし、彼から婚約破棄を告げられて、反論しようとしたら聖なる大鏡が割れて意識を失っていたんだっけ。

 だったら、これからやることは一つ。


 わたしは彼に向かってカーテシーをして、

「承知いたしましたわ、王太子殿下。では、わたしは婚約破棄の責任を取って辺境へ参りますので」

 彼の返事も待たずに踵を返す。

「お、おう……。分かっているじゃないか……」

 殿下は背後で何か言っていたけど、もう聞く必要もないわ。彼とは、二度と関わらないのだから。……もっとも、スペクタクルカメレオンはもう一度送り込むけどね。

 ゆっくりと神殿を出ると、覚えずに早足になって、ついに駆け出した。

 早く辺境に行かなければ!

 わたしの胸は踊っていた。辺境へ行ったらやることが沢山あるのだ。
 いろいろ想像すると、楽しみと嬉しさでいっぱいで、思わず顔をくしゃりと動かして笑ってしまった。

 今のわたしの片えくぼは左右どちらかしら? ま、それは後で鏡の前で確認すればいいことだ。

 それよりも、まずは――…………、

「小屋を作らないと……!」

 志半ばで頓挫してしまった小屋作り。次は必ず完成をさせて、それから道を広げて、街を整備して……辺境を王都よりも多きな都市にするのだ。
 それが、彼との約束だから。

 そして、今度こそデニス様の好きな料理を作らなきゃ!
 あぁ、忙しくなりそう!


「デニス様……待っていてください……!」


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