婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
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「お~う、いい感じじゃないか!」
デニス・アレッド辺境伯はここ数日、目が回るほど忙しかった。王命で、マーガレット・ローヴァー公爵令嬢との婚約が決まったのだ。
彼は未来の妻を迎え入れるために、急いで屋敷の整備を行っていた。なにせ、もうこっちへ向かっているらしい。
今は、公爵令嬢の部屋を用意している。
そこは彼の母である辺境伯夫人が使用していた部屋だ。さすがに壁紙や家具が古くなっていたので、新しく入れ替えているところだった。
「デニス様、中央貴族なんかのために、ここまでやる必要ないと思いますけど」と、彼の側近のブレイク子爵令息が口を尖らせる。
「大事な俺の花嫁だ。気持ちよく過ごして貰わないとな」
「王都の令嬢なんて、どうせ傲慢でろくでもない女ですよ。やるだけ無駄ですって」
デニスは王宮からの無茶な命令に苦笑いをする。
これから領地へ来る予定の、マーガレット・ローヴァー公爵令嬢。
彼は5年前に一度だけ彼女と会ったことがあった。
少しの間だけ会話をした仲だが、とても楽しくて、今でも心に残る大切な思い出となっていたのだった。
一番印象的だったのは、彼女が笑った時に現れる片えくぼ。
くしゃりと大きく笑ったときに浮かぶえくぼは、ちょっと大人びた澄まし顔の彼女が年相応の子供の姿に戻ったみたいで、とても可愛らしかった。
「マーガレット・ローヴァー公爵令嬢か……」